【W杯奇跡の起こし方】元ラグビー日本代表HCエディー・ジョーンズ氏「勝てる」信念を

スポーツ報知
日本代表

 最終回となる第5回は、元ラグビー日本代表ヘッドコーチ(HC)のエディー・ジョーンズ氏(62)による森保ジャパンへのエール。2015年のラグビーW杯で「スポーツ史上最大の番狂わせ」といわれた南アフリカを破る大金星に導き、サッカーにも精通する知将が、優勝候補のドイツ、スペインと1次リーグで対戦し、初の8強以上を目指す日本に必勝法を説いた。(構成・岡島 智哉)

 まず最初に、そしてこれが最も重要なことですが、日本代表は「勝てる」という強い信念をチームに築くことです。それには、選手が勝てると思える準備、戦略が不可欠。W杯で優勝経験のあるドイツ、そしてスペインの強さは明らか。そこに潜む弱さを徹底的に探り、勝てる試合内容をしっかりと想定する。そうした準備をしっかり行うことで、強国に「勝つ」という明確な意志を持って戦うことが可能になります。

 そのために、まずはベテランの中心選手に戦略と信念を吹き込むことが大事です。中心選手が自信を持つことで、彼らが若手にその自信を伝播(でんぱ)させ、浸透させていく。15年のラグビーW杯では、こうしたプロセスでチームに勝者のメンタリティーを吹き込んでいきました。DF吉田麻也はいいキャプテンではないでしょうか。自分の考え、そして闘志も外に出すタイプ。日本代表には自分の中に閉じこもらず「俺が先頭に立ってやる」という気迫と勇気がある選手が必要です。

 フィジカルで相手に劣る日本の場合、足元でボールを回す展開に持ち込む必要があるでしょう。そうした展開に持ち込むにはどうすればいいか。そこがポイントになるはず。技術力の高さで勝負するにはどうすべきか。自分たちの長所が発揮できる試合にする、そのための戦略が求められます。

 私の経験上、日本人は必要以上にミスを怖がります。ミスを犯してはいけないという切迫した心理状態で試合に臨んでしまう。しかし、ミスは必ず起きるもの。問題はミスが起こる度に自信を喪失してはならないということです。自信を失い、ミスを恐れる気持ちが強まると、選手が勝敗を左右する勇敢なプレーをすることを妨げてしまうからです。

 サッカーは1試合に400回以上、攻守が切り替わるスポーツです。1分間に4、5回も場面が切り替わる。ミスが起こる度に自信を失うわけにはいかない。直ちに対応し、すぐにボールを追うことが大切です。

 日本人は強いメンタリティーの持ち主です。世界的に見ても、非常に強いと思いますよ。忍耐強く、成功したいという向上心も強い。私はその根本的な強さを基盤にして、効果的な練習を積み重ねました。こうして「これだけのことをやった」という自信につなげました。

 「ベスト8は至難の業」だと考えてはなりません。選手にも、メディアにも、そういう考えは捨てなさいと言いたい。まずは日本人全員が「絶対に勝つ」と信じ込まなければならない。そういうメッセージを、選手、メディア、そして無論のことファンがしっかり共有しなければ。日本人みんなが代表チームの勝利を信じる、そういう機運をつくることが大切です。逆にそういうムードがなければ、W杯で勝ち進むことはできません。

 時に、奇跡は起こるもの。日本は高い技術と豊富な運動量で、ハイテンポな攻撃的サッカーを展開することができる。それを信じることができれば、W杯でも結果を残すことができるでしょう。(エディー・ジョーンズ)

=おわり=

 ◆ラグビー日本代表の15年W杯での歴史的3勝 1次リーグ初戦でW杯2度優勝&世界ランク3位の南アに34―32で勝ち「スポーツ史上最大の番狂わせ」といわれた。24年ぶりのW杯白星から中3日のスコットランド戦は10―45で黒星。サモア戦は26―5、最終戦の米国戦は28―18と連勝したが、勝ち点で南アとスコットランドを下回り、W杯史上初めて3勝しながら決勝トーナメント進出を逃した。

 ◆エディー・ジョーンズ 1960年1月30日、オーストラリア・タスマニア生まれ。62歳。シドニー大卒。現役時代はフッカー。2003年、母国の代表監督としてW杯準優勝。07年、南ア代表のテクニカルアドバイザーとしてW杯優勝に貢献。09年、サントリーGMに就任し、10年度に監督兼任で日本選手権優勝。11年、日本代表HC就任。15年W杯で南ア、サモア、米国を破る。同年11月、イングランド代表監督に就任。

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